某ファストフード店の福袋の抽選がハズレました。
ニコリスタッフの(焼)です。

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前回までのあらすじ
密男とライオンの最終決戦がはじまる…っ!

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穏やかな風が吹き、木の葉が一枚静かに地面へ落ちた。

これが一人と一頭のレース開始の合図だった。

密男は500メートル先の母屋にむかってひた走る。
その50メートル後ろからライオンが密男の背中を追いかける。

「母屋の中に入り、かぎをかけることができたら密男の勝利。それよりも前にライオンが密男に触れたらライオンの勝利」

これは密男が提示したレースの条件だったが、ライオンは一も二もなく同意した。「鍵をかけられるかどうかが勝敗を分ける」というのが両者の決着をつけるのにふさわしいとライオンは思ったのだ。

ライオンは四肢で大地を蹴りながら、考えていた。
「密男はいったいどのようなトリックを用いて鍵をかけるのか」ということを。
母屋と外をつなぐ扉は3つ、窓は一階・二階を合わせて30ある。これらのどれかから母屋に入るだろうか?
もしそうだとしたらそこには隙が生まれる。逃げる道がわかっている獲物ほどつかまえやすいものはない。
しかし、他にも道があるとしたら…?

たとえば時速100キロをゆうに超える密男がそのスピードのまま、壁に突進して穴をあけそこから母屋に入るかもしれない。あるいは超人的な跳躍力をいかして、サンタクロースよろしく煙突から侵入するかもしれない。あるいはすでに母屋を秘密裏に拡張していて、そこに向かっているのかもしれない。

鍵をかける、という条件も曖昧だ。たとえば密男はポケットに鍵付きの手帳をしのばせていて、母屋に入った瞬間にその鍵をかけるつもりかもしれない。これならば扉や窓以外の場所から入ってもすぐに「鍵をかける」という条件を満たせる。
もしくはせんだっての事件のように「かぎをかける」には別の意味があるのかもしれない。たとえば「鉤(かぎ)」状のものをどこかにひっ「かける」という手もある。ライオンは条件を聞いてしかいないから同音異義語を使ったこのようなトリックも成立する。
あるいは「心の鍵をかけた」などという精神論を持ち出すかもしれない。

こんなふうにライオンは絶えることなく思考を巡らせていた。

一方の密男は何も考えていなかった。

しかし、それはあえてであった。密男はあえて解釈の仕方がいくつもある、曖昧な条件を提示することでライオンが考えるように仕向けた。余計なことを考えさせることでライオンの足を少しでも鈍らせようとしたのだ。

密男はみずからが追われる側のうさぎであり、弱者であることを認めていた。ライオンは自分よりも速く、賢く、強い。

彼に勝つためにはその事実を利用しなくてはならない。

一羽のうさぎであればライオンの猛追からは逃げられないだろう。
だがうさぎがいくつもの道を通ることを、ライオンがその賢さゆえに思い浮かべてしまったのであれば、
その道の数だけ、ライオンの頭の中には二兎、三兎、四兎…と想像上のうさぎが生まれてくるのだ。
百兎を追うものは一兎をも得ない…密男はその可能性に賭けた。

密男はただ一心不乱に母屋にむけて走った。
賢しすぎるライオンはいずれ密男が何も考えずに走っていることにさえ気づくかもしれない。
ライオンの目の前にかかる幻想の霧が晴れてしまわぬうちに密男は一歩でも前に進もうとしていた。

しかし、「何も考えず走った」ことがあだとなった。

密男は、木と木の間に張られていたロープに足を取られてしまったのだ。
ロープを仕掛けていたのはライオンだが、ライオン自身もこの罠が功を奏すとは考えていなかった。

「視力3.0をほこり、人並外れた動体視力と反射神経をもつ密男であればどんな罠も回避するだろう」とライオンは思っていたが、
念のために道のそこかしこに罠を仕掛けておいたのだ。

そして何も考えずに走っていた密男は、あまたある罠のなかでも最も単純なロープにひっかかり、そのままバランスを崩してしまった。

ライオンはこれを好機と見て、後ろ足で大地を強く蹴り、宙高く舞い上がった。
その鋭い視線の先には、今にも地面に倒れ込もうとしている密男を捉えていた…!

<つづく>

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(次回予告)
密男の運命はいかに…っ!
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