最近フライドポテトを買わずに作るようになりました。
ニコリスタッフの(焼)です。

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前回までのあらすじ
ナジオの額に「肉」の字を書いた犯人はヤキコなのか…!?
密男の推理が光る!

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「どうかしら…まだその推理には穴があるわ…
 そうまるで、このオニオンリングみたいにね!」

ヤキコはオニオンリングを掲げながら言った。

「まずは…電話の件で不可解なところがあるわ。

 私が『テレビ見た?』と聞いたら、
 ナジオさんは『おそろしいね』と答えたわ。

 これってナジオさんが、ライオンの徘徊を
 知っていたってことじゃないかしら?

 だとしたら、その直後に聞いた『カギはかけたの?』という質問も
 クロスワードのカギではなく、離れの鍵のことと考えるのが自然でしょう?」

ヤキコはオニオンリングを頬張りながら不敵な笑みを浮かべたが、
密男も負けじとフライドポテトをむさぼりながら反論した。

「それも言葉のトリックですよ。
 電話をしたのは、午後8時でしたね。

 この雑誌のラテ欄を見ると、午後7時~8時にかけて
 ホラー系のドラマを放送していたようです。
 
 『テレビ見た?』と聞かれたナジオさんは、
 そのドラマを見たかどうかを聞かれたと思い、
 『おそろしいね』という感想を述べたのでしょう」

「…確かに、そのドラマはナジオが毎週かかさず見ているものだ…」
オサオは、まだ混乱した表情を浮かべながら言った。

「…想像力が豊かなのね。
 じゃあ、ライオンが鍵をかけている映像はどうなるのかしら。
 あれはねじ曲げようのない証拠でしょう」

「…いえ、あれもまた別の解釈ができるんですよ。
 これをご覧ください」
そう言って、密男はポケットから1つの鍵を取り出した。

「…それは…もしかして離れの鍵
 なんであなたがそれを持っているの…」
ヤキコの表情が曇った。

オサオは鍵に顔を寄せて、目を細めた。
「…この鍵、『』と書かれているじゃあないか!」

「その通り。ライオンは離れの鍵を開けていたわけではない。
 『肉』と書かれた鍵に攻撃をしかけていただけなのです。
 
 実際に鍵を開けたのは、部屋の中にいたヤキコさんです。

 外でライオンが鍵に触れているのをのぞき穴から確認するなどして、
 そのタイミングに合わせて内鍵を開けたのでしょう。

 それによって防犯カメラが起動して
 あたかもライオンが鍵を使って扉を開けようとしている
 ように見える映像が撮れたわけです。

 ライオンが外で鋭い爪を向けているのに、
 扉の鍵を開けたその胆力には驚かされますがね。

 あなたは『ナジオさんにカギをかけたと言わせるトリック』と
 『防犯カメラにライオンを映すトリック』、
 2つの『見せる』トリックを使って、
 密室を演出してみせたんだ!」

「ちなみにライオンをこの屋敷におびき寄せた方法も、
 橋を落とさせた方法も、この『肉』の字への攻撃を応用したものです

 ヤキコさん、まずあなたは屋敷までの道に点々と肉の字を書いたものを置いてまわった。
 ライオンはこれを追いかけて、この屋敷までたどり着いた。

 『内槍橋』の『内』の字には二画書き足して『肉』の字にした。
 さらに『肉』の字を攻撃したときに橋が落ちるように細工しておいたのです!」

ここまで密男の話を黙って聞いていたヤキコが口を開いた。

「ふふふ…面白い話。オニオンリングのさかなにはピッタリね。
 でもあなたの推理には、1つ決定的な穴があるわ…。

 テレビのニュースで私たちがライオンのことを初めて聞いたのは
 ディナーに舌鼓を打っていたころよね。

 アナウンサーはそのニュースを『最新』の情報として伝えていたわ。
 そしてそれを聞いたすぐ後に、私はナジオさんへ電話した。

 でもあなたの話だと、私は電話よりも前に
 『クイーンオブパズル』が二人の合同のペンネームであることを隠し、
 ナジオさんに「クロスワードのカギ」の話をしておかないといけないはず。
 橋を落とす大仕掛けに必要な道具の準備もしなきゃいけないし、
 『肉』の字を書いたものも大量に用意しなくちゃいけない。

 これって矛盾してないかしら?」

「いえ…それもすでに解決しています。

 あなたは、『肉』を襲うライオンの情報をSNSで見ていたのです。
 今の時代はテレビよりも先にSNS上で情報が出回ることも多い。

 SNSでまことしやかにささやかれていた情報を集めて
 事実であることを確信したあなたは準備を整えて、
 オラを呼び出したんですよ。

 そういうことだろ…ライオン」

密男は窓の外に声を投げかけた。

「見事な推理ガオ。それでこそ我が永遠のライバルガオ」

「…ほ、本当に…しゃべってる」

「ヤキコさん、あなたの最大の誤算はオレがしゃべることガオ。
 オレが『肉』という字を攻撃するだけのもの言わぬ獣であれば、
 密男が言ったことはすべて妄想であると
 一笑に付すことができたかもしれない。

 だけど、オレは実際に『肉』の字を追いかけてこの屋敷に来て、
 『肉』の字が書かれた橋や鍵に攻撃をしたことを『証言』できる!

 オレはこの『肉』の字事件の決定的な証言者ガオ」

百獣の王ライオンはそのたてがみをなびかせながら、
威厳に満ちた声で告げた。

「…ライオンの証言なんかに、証拠能力なんてないわ…」
ヤキコは声を絞り出すように反論を試みる。

「SDGsの時代にライオン蔑視の発言はいただけないガオ!
 それにスマホに証拠の写真も残しているガオ」

ライオンは水戸黄門の印籠のごとく、スマホを突き出した。

静寂が場を支配した。

しばらくして、ヤキコは震える声でゆっくりと話し始めた。
「…そうよ、私が犯人」

「…ヤキコさん、なんでこんなことを」
オサオが尋ねる。

「ナジオと私は、恋人同士だったのよ。
 来年には結婚をしようと約束もしていたの…。

 でもある日、見てしまった…。
 ナジオが他の女と指輪を選んでいるところを…」

「ヤキコさん、あなたは大きな勘違いをしている」
密男が諭すように言った。

「なによ! あんたに何がわかるっていうのよ!」
ヤキコは声を荒げた。

「じつはオラはナジオさんと秘密のやりとりをしたんです。
 フライドポテトをわんこそばか、満漢全席のように食べていたときのことです。
 
 オラはこんな感じにケチャップを使ってフライドポテトを
 皿に貼り付けて文字をつくり、離れにいるナジオさんに見せていた。
 オラのスピードは人間の目で捉えるのは難しいから、
 文字を作っている作業には気づかなかったことでしょう。

 一方でナジオさんの言葉は、オラ自慢の読唇術で読み取って、
 今回の事件について話し合ったのです」

「…ナジオはなんて言っていたの?」

ヤキコは尋ねた。

「それはナジオさん本人の口から聞くのがよいでしょう。
 すべてが終わったあとにね」

ヤキコが顔をあげたとき、密男の姿はすでにそこになかった。
言葉だけを残し、密男は人の目では追えない速さで
ライオンが待つ庭にたどり着いていた。

さあいくぞ、ライオン! 最終決戦だ!!!

あぁ…密男! このときをよだれを垂らしながら待っていたぜ!!!

<つづく>

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(次回予告)
密男とライオンは風となる…っ!
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