今回はまずは問題から。お気楽に解いてみてくださいませ。

問題の意図を説明する前に、すこし別の話。
第2回で、私(ケ)は、クロスワードの盤面に入れる言葉として名詞以外もありうる、と述べました。

名詞じゃなくてもクロスワードに入れて問題ないだろう、と考えている例の一つが「形容動詞の語幹」です。「きれいに」「重要な」の「きれい」「重要」の部分ですね。これは、すでにかなり許容されてるのが実情だと思います。

さらに、ある種の「文章」も使用可能な言葉としてあげられるでしょう。
たとえば「ぬかにくぎ」「いそがばまわれ」のようなことわざ。

ことわざは当然ながら名詞ではありません。でも、ことわざ、多くの人になじみがあり、しかもすぐに思いつく言葉です。そして文字数も多めです。ことわざが答えだったら、盤面に入れやすいですし、しかも多くのマスが一気に埋まるので、解き手も爽快です。実際に、ことわざが盤面に入る問題を作ったことは幾度もあります。特に大きな盤面の問題で、ことわざで10文字以上を埋めさせるのは、ダイナミックで気分がいいものです。
もちろん、「カギに対しては名詞を答えなくちゃならない」と想定している解き手を混乱させないための気遣いは必要になるでしょうね。ベタな解決案としては「やっても無駄、という意味のことわざ」みたいなヒントをつけることになるでしょう。

ことわざのほかには、俳句や短歌なども候補にあがると思います。古今の名句や名歌なら、盤面に入れてもさほど違和感がないでしょう。
そういえばニコリが作った「メガクロス」の盤面には、ことわざや俳句、百人一首の歌なども入っておりますよ。

念のため書いておきますが、文章を盤面に入れてもよいとは考えますが、勝手に考えた文章を入れちゃいけないとも考えています。つまりは、作者と解き手の共通認識になりうる文章でなくてはならない。そこは大前提です。

さて。本題へ戻ります。
今回のクロスワード問題は、「名詞以外の単語」を入れることを意識した問題です。
その言葉は「副詞」です。

タテ1・タテ7・タテ8・タテ10・タテ18の言葉は、どれもヒント文中で副詞として用いられています。
副詞は、動詞や形容詞などの用言を修飾する、活用しない単語。副詞を、名詞と同じ体言に分類する説もあるらしいです。
動詞や形容詞などの用言は、活用によって語尾が変化するので、クロスワード盤面に入れるのに不具合が生じやすいです。でも副詞は活用しません。
もちろん、活用しないから副詞を名詞扱いしよう、というわけじゃありません。
また、すべての副詞を、名詞同様に盤面に入れても可だ、と主張したいわけでもありません。

タテ1・タテ10・タテ18のような、四字熟語の副詞。これ、「漢字抜け熟語」のような漢字パズルではよく出てくる言葉です。漢字ナンクロに入っていても、違和感なく解き進められる言葉じゃないでしょうか。
またタテ7・タテ8は、名詞としても副詞としても用いられる言葉を、あえて副詞の用法でヒント文中で使っています。単語によっては、そのほうが無理なく思いつきやすいことがあるのですよね。

「鋭意(エイイ)」という単語は、「鋭意努力します」みたいに副詞として使われます。ですがこれ、「鋭意(集中した気持ち)をもって努力します」という表現の省略形なんじゃないかな、とも思うのです。だとしたら、「鋭意」は副詞だけど、名詞扱いしたっていいんじゃないか。
「エイイ」には、営為(いとなみのこと)や栄位(栄えある地位のこと)や衛尉(中国の官名)などのれっきとした名詞の同音異義語もあります。そっちでヒントを付けるほうが、名詞原理主義的にはよいのでしょう。でも「鋭意」が解き手にとっていちばんピンとくるのであれば、副詞であってもこれを使う、という選択肢はあり得ると思います。それが解き手にとってはデメリットにならないのですから。

まあ、一足飛びに副詞の使用解禁を求めるのは、そうとう乱暴な話だと自分で書いていても思います。
まずは、「副詞の中には、クロスワードに使っても問題ない言葉もあるんじゃないか」という疑問をいだくあたりから始めるのが妥当なのかな。
こういう疑問を忘れずに折に触れ考えることで、より創造的で発展的なクロスワードの基準を生み出せるんじゃないかしらん。
みなさまはどうお考えになりますでしょうか。

ちなみに今回の問題、一つだけ、形容詞も入れています。ヨコ17「スイ」です。
ただ、この「酸い」という形容詞、「酸いも甘いも噛み分ける」という慣用句のなかでは、名詞として扱われてるんじゃないのでしょうか。「酸い『物』も甘い『物』も噛み分ける」の、二重カギ括弧内を省略して名詞として使ってる気がします(私は文法にはくわしくないので見当ちがいな意見かもしれません)。
この「酸い」が名詞化した形容詞だとしたら、実は許容される表現と言えるんじゃないのかなあ。この「名詞的にあつかわれる非・名詞」についてもまた突っ込んで考えてみたいものです。
それではまた次回。