こんにちは(ケ)です。前回は、日本語クロスワードの黒マス配置はイギリス式に似ていること、アメリカ式黒マス配置の発展系のカックロ式黒マス配置などについての話でした。今回はその続き。

まずはさっそく、前回触れたカックロ式黒マス配置の長所について。
この黒マス配置だと、どの白マスもタテヨコ2つの言葉と絡んでいます。ですから、もしもタテかヨコどちらかのヒントだけでは入る言葉がわからないときでも、もう1つの向きの言葉から考えることが必ずできるわけです。これは、ヒントの一問一答で答えるのではなく、言葉の絡みから解くというクロスワードの基本につながる、大きなアドバンテージです。カックロ式最大の長所はこれ。
対面ふさがりや袋小路が多いスケルトン的な黒マス配置は、言葉の絡みから解くという楽しみを減じてしまうことがあります。絡みが少ないぶん言葉組みの自由度はあがるので、例えばテーマ性の高い言葉ばかりを入れることもできたりするわけですが、でも解き手に楽しんでもらえなかったらせっかくの問題がもったいないですよね。カックロ式黒マス配置は言葉の絡みという面ですぐれていると言えるでしょう。

その一方で、短所といえる部分もあります。
アメリカ式黒マス配置もカックロ式黒マス配置も、白マスのかたまりが大きくなりやすいのです。2文字言葉が使えるカックロ式だと少し大きさが抑えられますが、それでも大きめの白マスのかたまりはできやすい。
それがなぜ短所につながるのかというと。
英語と日本語を比較したとき、英語のほうが大きな白マスの固まりを埋めやすいという特徴があります。
クロスワードの先祖みたいな言葉遊びに、ワードスクエア(word square)というものがあります。一言で言えば、黒マスなしのクロスワード盤面を作るという遊び。英語でのワードスクエア、5文字や6文字のものはよくあります。最高は9文字のがあるらしいです。日本語で同じものを作ろうとすると、3文字は簡単、4文字はがんばればできる、5文字は相当むずかしい。

これ、1文字に子音と母音両方を含むカナと、子音か母音のどちらかであるアルファベットの違いが理由らしいんですが。そんな事情で、日本語クロスワードでは白マスのかたまりを大きくしにくいという制約があります。
この制約が、カックロ式黒マス配置の足を引っ張ってる印象があるのですよね。制約によって言葉組みに無理が生じやすい。うまく調整すれば、白マスだけのエリアを大きくなりすぎないように黒マス配置できますが、そこにはまたテクニックが必要そう。

そしてもうひとつ。カックロ式では、盤面のはじに長い言葉を入れにくいのです。盤面の周辺に長い単語を入れた黒マス配置、日本のふつうのクロスワードではよくあります。ですがカックロ式だと、対面ふさがりの白マスができる黒マスを置けませんから、盤面はじの単語には同じ文字数かそれ以上の文字数の単語を並べて配置しないといけません。すると白マスの固まりは自然と大きめになりますよね。ここで先述の「白マスの固まり」の制約が影響してきます。
それに、行頭に来ない「ン」「ー」「ヂ」「ヅ」などのカナを含んだ言葉は、盤面の上端や左端には配置できません。「ン」「ー」を含む言葉は結構多いですから、これもまた新たな制約になってしまいます。
もちろん、長い言葉を盤面の端から離して配置すれば大丈夫なのですが。そうすると今度は長い単語を盤面中にどれだけ入れられるか、というところで問題が起きてきたり。

アメリカ式黒マス配置(およびカックロ式黒マス配置)、日本語だと使いこなすのがちょっとたいへん。このあたりに、日本語クロスワードの黒マス配置がアメリカ式ではなくイギリス式っぽくなった事情があるのかなあ、と私は勝手に推測しています。
今回短所としてあげた制約は、あくまで作る側にとっての制約であるので、解く上ではデメリットにはなりません。となると、解き手にとってはメリットばかりだとも言えるんですが、やはり作るための制約が多いとそういう問題が作られにくいのも無理ないことです。
なにかの制約が、別のところで自由度を制限する。その中で完成度を高めるのはなかなか難しい。よくある話ですが悩んじゃう話ですね。

ところで。
アメリカ式でもイギリス式でも黒マス配置は基本的に対称形です。
これまで意識的に黒マス配置の「対称性」については言及せずに来ました。なぜかというと黒マス配置の対称と非対称についてはこれまた深い話が潜んでいるので、今回は触れずまた別の機会に。
次回はもっと軽くてばかばかしい話になると思います。それではまた。