どうも(ケ)です。
今月もまず問題から。今回は、タイポグラフィック・クロスです。

さて。
前回の絵ヒントクロスと今回のタイポグラフィック・クロス、どちらもヒントが文章ではなく画像的というところは共通点です。
けれど、この両者には、明確な違いもあるのです。

前回、こんなことを書きました。
“例えば「サユ(白湯)」を絵に描くのって、意外と難しいと思いませんか。”
白湯、色も香りもありません。ただの温かい水です。
そもそも、水を絵に描くのだってちょっと難しい。水が入ったグラスを描くくらいですかね。
白湯となると、入ってるのはグラスでなく湯飲みでしょうか。でも湯気の立つ湯飲みを描いても、お茶と見わけが付かなさそう。湯気の立つグラスを描いても、グラスの中に入っているのがホットミルクでも焼酎お湯割りでもなく、白湯にしか見えないように描くには、相当な画力が必要そうです。
ところが。
タイポグラフィック・クロスのヒントだと、こんな具合に「サユ」を描いてしまえるのです。

これはずいぶん安直な描き方なので、もっとしゃれた、もっとおもしろい描き方もあるでしょうね。

白湯の例のように、絵として描きにくいものでも表現可能なのは、タイポグラフィック・クロスのヒントが「文字」を使っているからです。
「文字」は事物の概念を表すための道具です。事物を説明するのに「文字」はとても役立ちますし、さまざまな便利な使い方ができます。
と同時に、「文字」は事物そのものではありません。事物の外見を直接的にかたどれる「絵」とは、そこが大きな差異です。
人は「文字」を受け取り、その「文字」が形づくる概念をかみ砕き消化して、「文字」がなにを言わんとしているのかを理解します。「絵」と比べたとき、表現しようとする事物へとたどり着くには、もうワンクッションを経る必要があります。
タイポグラフィック・クロスのヒントは、「文字」を使っているからこそ、ヒントに独特なおもしろみを与える特性があるのです。

「タイポグラフィック」という言葉が表すとおり、グラフィックすなわち画像としての妙味があるのも忘れてはならないところです。
タイポグラフィック・クロスのヒントでは、文字は文章のように整然とはしておらず、配列も大きさも形も自由に振る舞います。それがまた独特のおもしろみを産みます。
絵ヒントでの一つの手法に「事物を外見通りに描く」やり方があるのは前回も触れましたが、外見通りに描いた絵を文字に変換するだけでも特色ある画像ができあがるのです。

日本語のタイポグラフィックでは、漢字の存在がずいぶん力になると思います。
漢字には1文字で意味があるため概念を表現しやすいですし、漢字のかたちそのものが絵画的に振る舞う場合もあります。漢字の多くが象形文字や指事文字なのが関係しているのでしょうかね。

それにくわえて。
デジタル環境で描画する場合、文字は入力するだけできちんとした見かけのものが出てきますから、絵を描くのよりも楽です。
実際、今回のヒントを作るための時間は、絵ヒントのときよりもずいぶん短かったのでした。デジタル環境さまさまです。全部を手作業のレタリングでやってたら大変だったろうなあ。
とはいえ、文字を自由に描くのは、これはこれでたいへん。文字に演技をさせるために、あれこれ変形させたくなることがあるんですが、ソフトウェア上で実現するにはそれなりの環境と技術が要求されます。今回はけっこう小手先でごまかしています。
イメージを自由に画像にするなら、絵で描いてしまうほうが早いし伝わりやすいかもしれません。一方で、タイポグラフィックのほうが遠回しな画像になる分、ヒントとしてはおもしろいものになる場合もあります。絵ヒントにしろ、タイポグラフィックにしろ、その特長をうまく活かせるように言葉を選択して盤面を作りあげるのも大事なのですよね。

前回の絵ヒントクロス同様、今回もあれこれ頭を悩ませて、作者としても楽しめました。問題を解いた皆さまも楽しめたならば幸いです。
ではまた次回。