どうも(ケ)です。
前回、クロスワードの制作過程を説明しました。その途中で「黒マス非対称配置も考えましたが、わざわざそうする必然性も思いつかなかったので却下」なんて一文を書きました。
ニコリが新聞雑誌などの各種媒体や、自社出版物に載せているクロスワード、その多くは黒マスが対称配置になっています。私が日々作るクロスワードも、そのほとんどすべてが黒マス対称配置の問題です。
今回は、黒マスの対称配置ってどんな意味があるの、というお話です。

いきなり結論めいたことを書いてしまいます。
黒マス対称配置のもっとも大きなメリットは、「言葉組みに向いたよりよい構造を、事前に調整して決定しておける」ことだと私は考えています。
長い言葉、短い言葉をどれだけ入れるか、その言葉どうしをどのように交差させるか、などの盤面の構造を、実際に言葉を組み合わせる前から決めておけるのです。
これは、建築家が建設を始める前に構造計算するのに近いのかな、と勝手にイメージしています。
求められる建物を建てるには、どこに何本、どんな太さの柱が必要か、その柱をどう梁でつなぐのか、充分な強度を保つための構造材はどこにどれだけ入れたらよいのか。そういうことを事前に考えずにいきなり建て始めたら、たぶんどこかで破綻して、建築は失敗しかねないですよね。

前回のカットで「白マスが固まりに」なんてことを言わせてますが、黒マスなしで白マスが大きな固まりになるような盤面を作るのはなかなか大変。使用する言葉にも無理が生じがち。だから適度に黒マスを配置する必要がでてきます。
かといって黒マスをたくさん入れ過ぎると、言葉同士の交差が減り、「言葉の絡みで解かせる」というクロスワードの特性が活きてこなくなります。また解き手が知らなさそうな言葉を、交差する言葉を埋めることで答えさせるような手法も使いにくくなります。

そのあたりのバランスを調整するため、黒マスの配置をまず決めるのです。「実際に盤面として成立しうる」黒マス配置を事前に設計しておくことで、必要な水準を無理なくクリアする言葉組みが可能になります。
つまりこれは、品質管理、クオリティーコントロールに通じる話。さらには解き手をより楽しませることにもつながります。

そして、事前に黒マス配置を決めておく作り方では、黒マス配置を対称形にするほうが格段に合理的です。
無理なく言葉組みできる黒マス配置が決められたなら、その対称位置に、同じ黒マス配置をひっくり返して置くほうがよいですよね。手間が半分になりますし、それで不具合もない。むしろ非対称にする必然性が少なくなります。

クロスワードは、黒マス配置が対称であっても作るのにさほど支障がなく、解く上でも問題ない点も大きいのかもしれません。
パズルの中には、黒マスや数字や記号などの配置を対称形にすると、とたんに解き味が落ちたり、あるいは作りにくくなったりするパズルもあります。ですがクロスワードはそういう種類のパズルではないのです。

シンプルかつ大胆に言いきっちゃうならば、「まず黒マスの配置を決めて、それから言葉組みを始める」作り方では、黒マス配置は自然と対称配置になる、ってことです。
その作り方とは正反対の、「言葉を実際に組み合わせながら黒マスの配置を決めていく」という作り方もあります。たとえば、テーマに関わる言葉を可能な限り多く入れた問題を作りたいときには、後者の方法がまさっている面があります。そしてこの方針を最後まで用いて盤面を組み立てたなら、黒マス配置が非対称になるのは自然だと思います。
この2種類の作り方、それぞれメリットもデメリットもあり、作り手の好き好きにも関わるので、どちらが良い悪いとは一口にはいえません。

ちなみに「対称的な配置はきれいで解き手の目を引く、解き手に解く意欲をわかせる、だから対称配置が優れているのだ」という意見があります。
その意見がまったくの間違いだとは思いません。でも一番の正解だとも言いがたいだろう、というのが私の意見。「対称形だけど目を引くほど美しくはなく、しかもパズルとしては解きにくくなる不出来な配置」というのはいくらでもありえますから。
そしてその逆に「印象的で美しく、パズルとしても解きやすい、非対称の黒マス配置」の問題もじゅうぶんにありえるわけです。
「黒マス配置が対称か、それとも非対称か」というその点だけでは、パズルの質を論じるには足りないのです。

そもそもクロスワードでは、言葉組みだけが問題の良否を決めるわけではありません。たとえば、盤面の言葉に対してどんなヒントを付けるのか、それも問題の質に大きくかかわる大事な要素です。やっぱり最後は、どれだけ解き手を楽しませたか、そこしか価値判断の根拠はありません。

「その黒マス配置が、どんなメリットを解き手に与えるのか」という根本の認識がしっかりしていないと、どんな見事な黒マス配置であっても、単なる技術自慢におわっちゃうよなあ、とこれは自戒をこめて書いておきます。

などとわざわざ自分でハードルを高めておいて、今回も問題をどうぞ。
90度回転して重なる点対称配置の黒マスで作ってみました。
二重ワクのマスの位置もあわせて、見ばえが少しでもよくなるようにしてみました。
お楽しみいただければ幸い。ではまた次回。