文章:(ケ)
以前に共同通信社発行の「記者ハンドブック」略称・記者ハンの話をしましたが、この3月に記者ハンの第14版が発行されました。ニコリ編集部でも早速購入いたしました。そのついでに1月に発行された「三省堂国語辞典」、通称・三国(さんこく)の第八版も購入しました。新しい資料が来るとなんだかうれしくなってしまいます。
クロスワードを作ったり編集したりする上で、いろいろな資料、特に国語辞典はいまさらいうまでもなく重要なもの。
いちばん多用する国語辞典は「広辞苑」でしょうか。そのほか「大辞泉」「新明解国語辞典」「明鏡国語辞典」、そして国語辞典の中では最大規模の「日本国語大辞典」も使います。「日本国語大辞典」、書籍だと十何巻もある大著なのですが、いまではネットで検索可能なのでありがたい。ほかの辞書も、パソコン上で電子的に検索できるものばかりです。
そのなかで、「三国」はウェブ検索サービスもアプリもないもので、普段使っているWindowsパソコンでは検索することができません(iOSにはアプリがあるそうです)。
そんなハンデがあっても三国を資料に使う理由があります。三国は、ある言葉が「いまの世の中でどのように使われているのか」を知るのに役立つ辞書なのです。
「三省堂国語辞典」改訂のニュース、「こんな言葉が採用された」「こんな言葉が削除された」という内容と一緒に報道されるのが通例。三省堂国語辞典の、今回の改訂でのうたい文句は「ことばで写す時代(いま)」。すなわち現代われわれが用いている言葉の様相を辞書の中に盛り込むことに重きが置かれています。
この三国の姿勢が、クロスワードを扱う上で役立つのです。
クロスワードというパズルは、ヒントと盤面の文字から、答えの言葉を解き手に思いつかせるパズルです。それには、答えの言葉が解き手にどう理解されているか、を念頭に置かねばなりません。言い方を変えれば、世の中での「言葉の意味の最大公約数」を見極める必要があります。
いま「最大公約数」という言葉を「多くの人の意見に見られる共通項」という意味で使いました。「最大公約数」本来の数学的な意味から離れた「共通項」という使い方、これこそが「世の中の人がこの言葉をどう理解し使っているか」の一例ですね。
辞書的な意味と、世の中での使われ方、そこの間にはときどき距離があります。クロスワードを作る側としては、言葉の本来の意味にくわえて、言葉の使用実態も考慮に入れないといけません。そうでないと、まちがってはいないけど解けないパズルになってしまう恐れもあります。クロスワードで使われる言葉は、ただ正しければよいわけではなく、解き手とつながれなくてはならないのです。
これは、解き手の知らない言葉を使ってはいけないという意味ではありません。意図的に「解き手の知らない言葉」を使う場合もあります。その言葉を解き手が知っていそうか、あるいはなじみがなさそうか、そこに気を配って言葉を選び使いこなさないといけない、という意味です。
そのためには、今の言葉の様相を知るための観測ポイント、基準点のようなものが必要となります。そのポイントになるのが三省堂国語辞典であり、記者ハンドブックである、というわけなのです。
念のために言っておけば、これは辞書や資料の優劣という話ではなく、それぞれの性格や特長というべきもの。それを理解して、各資料の長所を活かす使い方をしていかなければなりません。
さて、今回は実際に解けるクロスワードの問題も用意しました。テーマは「言葉の移り変わり」。三省堂国語辞典での言葉の扱い方を中心に、いろいろと盛り込んでみました。ニコリが開発した「e-クロスワード」というシステムを使っていますので、いまここをご覧になっているブラウザ上でそのまま解けるはず。おたのしみいただければさいわい。
それではまた次回。