文章:(ケ)

前回、「スミの黒マス」について少し触れました。
実はこの「盤面のスミを黒マスにするのはOKかNGか」問題、ずいぶん長いこと考えてきております。
前回書きましたとおり、私(ケ)は、盤面のスミを黒マスにしても可という「スミの黒マス容認派」ではあります。でもスミの黒マスを不可とする人が間違っているとは思っておりませんので念のため。
今回はこの「スミの黒マス」について考えます。ものすごく狭い話でスミマセン。

まず、なぜスミの黒マスが敬遠されるのか。
これまでいろんな人に意見を聞いてきました。ニコリ以外のところでクロスワードを作っているような人にも質問してきました。
よく聞くのは「四角い盤面の、カドが欠けちゃった感じがするのがいやだ」という答えでした。
感覚的な理由ですが、納得はできる答えです。感覚というのは、アソビでは重要です。アソビが楽しいのは、理屈ではありませんから。

カドが欠けちゃった感は確かにわかるんですが、ではそれはダメなのかしらん。
盤面が欠けて四角でなくなるというのは「四角い盤面の面積が減っちゃった、損しちゃった」みたいな感覚なのでしょうか。
黒マスを1つ配置すれば白マスが1つ減る、すなわち盤面に入れる文字が1つ減るわけです。あたりまえの話です。でも、スミに黒マスがあると、単なる白マスの1マス減少よりも、盤面の面積が減ったとより強く感じるのかもしれません。それによって「なんか損した」という印象を持つのもありそうです。
こう考えると、スミの黒マスが敬遠される理由もぼんやりと納得できてくるような。

でも、そもそも白マスの総数が減るのは、損をしたと感じさせることなのでしょうか。黒マスだらけで言葉があまり入らない盤面ならまだしも、盤面のスミは、最高でも4マスしかないのですしねえ。
解き手が損したと感じるとしたら、なにかもっと別の要因が強いような気もします。そもそも損した得したという考え方がおかしいのかも。と自分で問うて自分でたどり着いた結論を自分で否定してたら世話はないですね。

スミの黒マスは、盤面から取りさってもOKなマスで、そしてそれをなくすと盤面が四角じゃなくなるのがNGだ、という主張を聞いたこともあります。
これも感覚的に理解できる主張ではあります。
ですがその理屈なら、盤面の辺に接する黒マスも取りさってOKで、そしたら盤面は四角じゃなくなります。やはりスミの黒マスを特別視するには弱い。

実際に問題を解くとき、スミの黒マスがどう関わってくるのかも考えてみましょう。
まず、盤面のカド付近2×2マスの範囲での、黒マスの配置の仕方を整理してみましょう。黒マスのないパターンも含めて、一般的な配置法だと以下の6通りとなります。

A・Eが、スミに黒マスの置かれたパターンですね。Fは黒マスがないパターン。
B・Cは、タテとヨコの方向が違うだけで本質的には同じです。
B・C・D・Eでは、他の言葉と交差しないマス(薄い青色のマス)があります。この交差しないマスがあるとどうなるのでしょうか。
クロスワードでは、カギから言葉がわからないときには、交差する言葉を頼りにして、文字を確定させていきます。交差しないマスがあると、この確定の妨げになります。ですから、交差しないマスは可能ならば減らした方がよい、という考え方があります。
となると、解く側からすればAの配置はBやCよりもよい、ともいえます。やっぱりスミの黒マスを否定する理由にはなりません。

もっとシンプルに、スミに黒マスがあると見栄えが悪い、というような美的感覚が理由なのかもしれません。ただ、キレイだキレイじゃないという話には、あまり一般性も発展性もなさそうなので、論じるのは控えておきます。

ちょっと視点を変えます。
作る側からすると、スミの黒マスを禁止しないほうが、全体に言葉組みの自由度が上がるのは確かです。自由度が上がる、というのは、作りやすくなる、作るのが楽になる、とも言い換えられます。
作る側が楽したら、反対に解く側が損をするんじゃないか、と考えた方がいるかもしれませんね。でもそんなことはないのですよ。
むしろ、作る側が楽になると解く側も得をすることになります。言葉組みを制限する要因が減ったなら、よりよい言葉組みを検討しやすくなります(例えば、答えやすい言葉や、テーマ性に沿った言葉を選びやすくなります)。結果として、パズルの質をより上げられます。
黒マスを置く場所に制限がない、つまり自由度が高いほうが、解き手をより楽しませる手段を追求しやすくなるわけです。
このあたりが、私(ケ)がスミの黒マスを容認する大きな理由でもあります。上で挙げた黒マスパターンのどれを使えばよりよい問題になるのかは状況次第ですが、日々いろいろ悩みつつ作っております。

ちなみに英米のクロスワードでは、スミの黒マスは別に禁じられてはいないようです。下の写真は、米国の書籍に載っている、スミに黒マスがあるクロスワードの一例です。この種の盤面はよく見られます。

いろいろ論じましたけど、スミの黒マスがOKかNGか、これは実際には作る側の都合、作家側のルールなのです。解く側は気にする必要もありません。
スミの黒マスの意義、もう10年以上も考え続けています。すっきりした結論はまだ出ておりません。こんな狭い話におつきあいいただいた方、どうもありがとうございました。ではまた次回。