あれはいつのことだったか正確には覚えてないけれど、
ざっと3年くらい前にもなるのかなあ。

事務所で仕事していたらたいそう深い時間になりまして、
もう私ともうひとりしか残っていなかったんですね、そのとき。

で、終電もわりと見えてくる時間になり、バタバタともうひとりが帰ったのです。

で、私ももう帰るべ、そのまえにトイレトイレ、てな感じで用足しに行きまして、そうしたらその短い間に、忘れ物をしたらしいそのもうひとりが戻ってきてたんですね。

私はそれに気付いたけれど、向こうはこっちに気付いていないようだったので、
気付かれないように出口付近の、ふたたび退社するときに通るであろう導線の、ちょっと脇に身を隠したのですね、わたくしは。

で、ふたたびバタバタと帰ろうとしたそのタイミングで、オツカレサマ、などと言って脇から顔を出してやったら、狙い通りの、こういうふうにビックリしてくれたら理想だなという想定のど真ん中を突く
「おううわわああぁっ」
といった感じの驚き方をしてくれたので、
わたくしとしてはしてやったり。ふたたび
「お疲れさま~」
などと喜びに打ち震えつつ言ったのですが、それに対して即、
「いや、私じゃなかったら死んでましたよ!」
とその人は言い、そしてバタバタ帰宅していったのです。

残されたわたくしは
「私じゃなかったら死んでましたよ」
を、よく噛みしめていました。

言い換えると、
「私じゃない人が同じ目にあっていたら死んでいるくらいの驚きだったが、たまたま私だったから大丈夫だったんですよ(常人よりもずっとレベルが高いので)」
という意味になるのだろう、と。

なれば、この短いセンテンスには
●非常に、MAXに驚いたという、感想の表明
●驚かせるにも程度があるぞ、という抗議
●でも私はそれを今回許容するという寛容
という3点が含まれているのだろう、と。

しかも、
「いや、『私じゃなかったら』って、どんな訓練受けてきたのよ」
といったツッコミへとつなげる道筋まであるじゃない、と。

まことに平易かつ短い文中に重層的な意味を凝縮させつつ、
攻撃されるスキさえ兼ね備えているという恐ろしく懐の深いセンテンスであり、
それがあの驚愕直後によくもとっさに出てきたものである。すげえ。

といった具合に私は非常に感銘を受け、帰りの電車においてもしばらく反芻したものでありまして、
数年経た今でもなお記憶に鮮明であるがゆえ、このたび雑記にしたためた次第です。

ま、もうひとりというのはスタッフの(焼)のことであります。