行きつけの店でフライドポテトのサブスクが終了してしまい、
おセンチメンタルジャーニーな(焼)です。
○バックナンバー
第1回
第2回
第3回
第4回
第5回
第6回
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「ナジオさんを助けにいかなくちゃ!」
ヤキコがそう叫んで外へ飛び出そうとすると、
オサオがそれを制止した。
「待つんだ、ヤキコさん! 庭にはライオンがいるんだよ。
うかつに外へ出るのは危険だ…。
それに、あのライオンは『肉』という字に
反応して襲ってくるそうじゃないか。
ナジオが下手に外へ出たら、格好の標的だ。
今は離れに閉じこもっていたほうが
ナジオも安全だよ。
それよりもまずは警察に電話して応援を呼ぶのが先決だろう…」
「そうね…じゃあ私が電話するわね…」
ヤキコは受話器を持ち上げて、ボタンを押した。
「…あれ? 電話が通じないわ…」
「なんで…。ここはスマホも通じないし、
インターネット回線も通っていないのに…」
ヤキコは呟いた。
それに続けて、オサオが嘆いた。
「ああ…、この屋敷には電話以外の
一切の通信手段はない。
そのうえ、この屋敷には
人一人がやっと通れるくらいの小さな吊り橋を
渡らなくては来られないから、
車のような交通手段も持ち合わせていないし、
誰かが偶然通りかかることもめったにない。
ここから一番近い人家まで、徒歩だと最低でも30分かかる。
ライオンに対抗できるような武器も防具も屋敷の中にないし、
新聞配達などで定期的に来る人もいない。
のろしを上げても煙突の煙と勘違いされてしまうだろう。
周りが森に囲まれているから、
ここの様子は外部からあまりわからない。
あと、気流かなにかの関係でこの屋敷の上空を
ヘリやドローンが飛ぶことも難しいらしい」
「…仕方がない。できればこんなことはしたくなかったが…」
部屋の隅で三角座りをしていた密男が突然声を上げた。
「オラが走って、助けを求めてくる!
オラはあのライオンよりも足が速いんだ」
ヤキコは不審そうな顔で言った。
「そんな見え透いた嘘を…あれ、密男…どこに」
「言っただろう…、オラは速い」
ヤキコが瞬きをしている間に、
まさに瞬間的に密男はヤキコの背後に回っていたのだ。
「第4回でもオラはライオンに素早さでは勝っていた…。
体力の問題はあるが…ライオンに追いつかれず
橋を渡りきってしまえば、最悪、橋に火を放つことで
追撃を退けることもできるはずだ」
そのとき、テレビのニュースが流れた。
「さきほどの続報です。ライオンの出没が確認された地域にある
橋が破壊されているのが発見されました。
破壊されたのは内槍橋(うちやりばし)という吊り橋です。
ライオンとの因果関係は不明ですが、
住民のかたがたの安否が心配されます」
一同は互いに顔を見合わせた。
「これって、ここに通じる唯一の橋ですよね…」
ヤキコの声は震えている。
「もしかしてだが…ライオンは『肉』という字と
『内』という字を見間違えて『内槍橋』の支柱を壊したのではないか…?」
オサオが思いつきを口にした。
「…なるほどね」
密男の語気はすっかり弱くなっていた。
「内槍橋なだけに、うっちゃりをかましたわけか…」
―こうして、場は静寂に包まれた。