どうも(ケ)です。
この11月、『クロスビー 日本クロスワード100周年記念増刊号』(以下・記念号)が刊行されました。日本にクロスワードが登場して百年、それを記念しお祝いする、永久保存版の書籍です。
今回はこの本について宣伝。手前ミソでスミマセン。

この記念号の詳細については、WEBニコリの出版物紹介ページ(https://www.nikoli.co.jp/ja/publication/word/cbz/)や、先日次ニコに掲載された記事「「クロスビー 日本クロスワード100周年記念増刊号」ライブ配信ダイジェスト!」(https://tsuginiko.com/20251107/11321/)を見ていただくとして(手抜き)。
たくさんの投稿クロスワードを掲載させるとともに、今のクロスワードの到達点を世に示すのが、大きな柱となっているのは間違いありません。
投稿パズルを中心にしてできあがった本だという点は、問題の制作を依頼して、それをまとめあげるクロスワード書籍とは違うところですね。ささいな違いに見えるかもしれませんが、編集者のハシクレとしては大きなポイント。「どういうサイズの問題がどれだけ集まってくるのか、事前にはわからない」まま制作がスタートするのは、けっこうドキドキものだったんじゃないかしら、と思います。
その甲斐あって、普段のクロスワード本に輪をかけて、多彩な作風の問題が集まっているな、という印象があります。
スタンダードな、普通のつくりのクロスワードの中でも、多種多様な味わい。そこに加え、変則的なクロスワードがいくつもありますから、多様性がたっぷり詰まっているのです。
この本は「日本クロスワード100周年記念」ですから、百年間の歴史を感じさせる部分がなけりゃウソですよね。
安心してください、そこにもこれから触れますよ。
この本の中には、英字や漢字でマスを埋めるクロスワードがあります。また、通常の言葉の表記でマスを埋める「普段字クロス」もあります。いろんな文字を使う日本語ならではのアイデアですよね。
実は、これらのクロスワード、異種文字クロスワードとでもいうべき問題は、百年前の大正14年に、アイデアとしてすでに生まれています。大正14年10月に刊行された本山桂川『クロス・ワードの考え方と作り方』(https://dl.ndl.go.jp/pid/1018759)には、これらの原型というべき問題が例として載っています。盤面のバリエーションとしては、異種文字クロスワードはすでに通過済みというわけです。
シャシュショクロスや、2文字クロス、2文字もあるよクロスのような、1マス1文字ではなく、1マスに複数文字が入るスタイル、いわば多文字クロスワードは、さすがに大正14年には見受けられません。
黒マスで盤面上にデザインをしていくタイプのクロスワードも、大正14年にはたくさん生み出されましたし、その後も多く作られているようですが、『クロスビー』ではこちらの方向への進化は少なかったのでした。ニコリでは、黒マス配置を対称形(特に点対称)に絞っていった影響でしょうね。
私個人の印象として、百年前からもっとも大きく変わっているのは、ヒントの部分じゃないのかな、と思います。
日本初のクロスワードは、米国留学をしていたサンデー毎日の記者によって作られたせいもあって、米国風の簡潔なヒント、辞書の定義のようなシンプルなヒントが付けられていました。
一方で現代の日本のクロスワードのヒントには、辞書的な定義を離れて、解き手の感覚的なところに訴える、話しかけてくるようなヒントがよく見受けられます。これが百年の成長の表れなんじゃないか、と思うのです。
国民性の違いなのか、英語と日本語の違いなのか、確かなところはわかりませんけれど、この多弁で饒舌なヒントが、日本のクロスワードに独特の雰囲気をもたらしている気がします。
『クロスビー』初期はもちろん、『パズル通信ニコリ』初期の頃から、饒舌なヒントはありました。懸賞とは縁遠い、ニコリの雑誌や書籍で展開されたクロスワードは、「趣味としてのパズル」を追い求めたため、作者の思いが存分に盛り込まれて、饒舌化したとも考えられます。
そしてその饒舌化と、パズル的思考がかけあわされた結果、たいへんに革新的で前衛的なヒントの文体というものが現れてきました。記念号にも載っていますが、エッセイクロスや短編ヒントクロスなどは、その進化の末に誕生したんじゃないでしょうか。
絵ヒントクロスやタイポグラフィッククロスもその進化の申し子ですね。実は、絵ヒントクロスは大正14年にはすでにあったのですが、百年前のストレートなものとはまた違う味わいの絵ヒントクロスに成長しています。
もちろんスタンダードな問題にも、アバンギャルドがあふれかえってる問題がありますよ。パズル好きな読者の間で揉まれてきたニコリのクロスワード、ただものじゃない問題がちゃんと控えています。ぜひ解いて楽しむことをオススメします。
そしてこの記念号は、単なる問題集ではありません。百年の成長を示す記録集、データの集積でもあるのです。
ニコリが45年間にやってきた記録、また百年目の記念すべき年にやったことの記録。これらは、今後、クロスワードの歴史というものを調べる人にとって、2025年のクロスワードの到達点を示す、里程標の代わりになるはずです。
この「クロスワードのいろいろ話」も、私(ケ)としては、未来のパズルファンへ資料を残すつもりで書いています。それと同じようにこの記念号も、十年後、五十年後、百年後にクロスワードの歴史を振り返る人にとって、貴重で実り多い資料となることでしょう。つまりは未来のための記念碑なのです。
パズルは、パズルとして存在するだけでは意味がありません。誰かに解かれ、楽しまれて初めて、意味のある存在となります。
パズルは世の中の人に解かれなければならないのです。社会の中にあってこそ価値があるのです。
ですから、パズルと社会との関わりを記録しておくことには、とても大きな意味があると私は考えています。
この記念号は、日本クロスワード百周年のいま、クロスワードがどのような存在に成長したのかを示すものになっているだろうな、と思います。
さて、最後に、いつものようにクロスワードの問題です。
記念号の中で、クロスワード制作実況中継の記事を書きました。
その制作途上で、採用しなかった黒マス配置があります。その配置で問題をリメイクしてみました。同じ趣向ですが、最初と最後の言葉以外はまったく別物。ただ、採用しなかっただけあって、なかなか厳しい黒マス配置で、盤面組みも難航しました。このサイズであんまり趣向を詰めこみすぎるな、ということですね。
別バージョンとしてお楽しみいただければ幸い。
それではまた次回。
(次回は2025/12/24更新予定です)
