どうも(ケ)です。
今回は、1983年以降に相次いだ、パズル雑誌たちのお話。

が、ともかく今回はミニコミならではのゲリラ型新ジャンル雑誌を紹介したい。「パズル通信・ニコリ」(中略)というまあつまりはパズルの専門誌である。(中略)一部の書店へ持ちこみ販売の、まったくの手づくり雑誌だけれど、これが売れても大手は荒らすなよ。

(『椎名誠のマガジン・ジャック』朝日新聞・1981年1月28日付朝刊 より一部引用)

1980年『パズル通信ニコリ』(以下ニコリ本誌)が創刊。1983年4月に『クロスビー』が創刊。そのあと同じ年に『パズラー』も創刊されたのは「日本クロスワード100年史」でも書いているとおりです。

この年(引用者註・1983年)、世界文化社では11月になって、市販商品として、3番目の雑誌を創刊した。『パズラー』がそれである。文字通りパズルばかりの雑誌であり、社長・鈴木勤がこの年、ヨーロッパとアメリカを回った折に、かなりの数のパズルマニアがいて、この種の雑誌が多いことにヒントを得たものであった。(中略)鈴木社長は世間一般が“雑学好き”になっている傾向からみても、パズル専門誌は必ずヒットするだろうと考えた。

(『世界文化社50年史』世界文化社・1996年 より一部引用)

つまりパズラーは、欧米のパズル誌をお手本に日本でもパズル誌を出そうと、世界文化社の社長さんが思いついたのが誕生のきっかけということですね。実際、初期のパズラーは米国のパズル雑誌『GAMES』と特約を結んでいましたから、パズラーの由来は米国にあり、といえるのでしょう。

ここまで読んできて。
いや、そんなことはない、そのころには日本でもパズル専門誌が出てたじゃないか、実はパズラーは、それらを手本に創刊したのでは、と思った方もいるかもしれません。
まず、日本にパズル誌があったのはまったくそのとおり。1983年11月時点で、ニコリ本誌とクロスビー、そして『クロスワードmagazine』の3誌はすでに発行されています。
ですけど。
これらの雑誌が、どれだけ世間に知られていたのか、というのは別の問題。

ニコリ本誌創刊後の話ですが、6カ月間の市場調査の結果「日本にはパズル誌がない」という結論に達した荻島出版が『ザ・パズル』(1981年)を発行した、ということがあったとか。『本屋さんに行くと言ってウルグアイの競馬場に行った』(鍜治真起・波書房・1997年)中に書かれているエピソード。
『出版年鑑』(出版ニュース社)にニコリ本誌が登場するのは1984年版。クロスワードmagazineはまったく掲載されないままでした。『雑誌新聞総かたろぐ』(メディア・リサーチ・センター)1982年版には、前年創刊のクロスワードmagazineが掲載されていますが、ニコリ本誌やクロスビーの初掲載は1984年版なのです。パズラーも同じく1984年版からの掲載。
雑誌の出版情報を集めた年鑑ですらこうなのです。大手取次会社を介していない、書店直取引の少部数雑誌が、他の出版社の目に止まらなかったとしても、それは無理ないことだったかもしれません。

椎名誠さんの「マガジン・ジャック」記事を前提にして振り返ると、ニコリ本誌が生み出したパズル雑誌の市場へ、大手出版社が1983年以降に追随し始めた、という見方になるのはありえるかと思います。
ですが、世の多くの出版社は、パズル雑誌市場がすでに生まれていたことに気付いてもいなかったんじゃないでしょうか。
いろいろな状況証拠を見ているとそんな気になります。40年も昔の話だと、実情を今さら突き止めるのはもはや難しいでしょうけど。

少なくとも「パズラーはニコリを模倣して作られた」とは言い難いと思います。
むしろ「パズラーは模倣される側だった」というのが、私(ケ)の印象です。

下に、パズラー創刊号の目次(一部)をご紹介。パズル掲載ページは全体の半分もなく、記事や読み物などのページが多めです。

パズラーは、創刊翌年の1984年には、発行周期を月刊から隔週刊にします。また同じ年には、別冊として『クロスワードファン』『SFパズル・ウォーズ』『パズルファン』『迷図ファン』などを発行しています。早い周期でいろいろなパズル誌を出して読者の反応を見て、それに合わせパズルのジャンルや誌面のテイストを定めていったのでしょう。
その結果、クロスワードを中心にプレゼント問題を多く載せた、問題集的なパズル誌のスタイルが生まれてきたのです。
下図はパズラー1985年11月21号の目次。2年前の創刊号とはずいぶん変わり、今もよくあるタイプの誌面構成になっています。

このパズラーの編集方針を、他の出版社が参考にして、類似の雑誌を作っていったのだろうと私は考えています。そういう意味で「パズラーは模倣される側だった」のです。

さて最後に、1984年にちなんだクロスワードをどうぞ。お楽しみいただければ幸い。

80年代に生まれたものっていろいろありますよね。
ではまた次回。

参考資料
『世界文化社50年史』世界文化社

(次回は2025年2月26日更新予定です)