どうも(ケ)です。
クロスワードの決まりごととされる中に「盤面の中で、同じ言葉を2回以上使わない」というものがあります。「同語禁」などと呼ぶこともありますね。
今回はこの「同語禁」のルールのお話です。
同語禁ルール、例えば、ニコリの定番パズル「余計文字クロス」のルールでは、「1つの盤面に、同じ言葉を複数個入れてはいけません」と表現されています。
この同じ言葉というのは、カナで表記したときの音が基準。例えば「高価」の意味で「コウカ」を盤面に入れたら、同音異義語である「校歌」も「硬貨」も「効果」も「考課」も、他の場所に使ってはダメ、ということですね。音だけでなく、つづりも一致してはダメなので「病院」と「美容院」は同じ問題には入らないのです。
同語禁ルールそのものは相当古く、そして日本のみならず海外でも広く通用する決まりごとです。
とはいえ、世界最初のクロスワード、1913年12月21日にニューヨーク・ワールド紙に掲載された「Word-Cross」では、このルールが守られていなかったんですけどね。DOVE(ハト)が2つ入っていたのです(下図参照)。それぞれに違うヒントが付けられていたのでした。まあ、世界初だったのでご容赦、ってとこかな。
この同語禁ルールがある理由は何なのでしょうか。
感覚的にはとても自然。いろんな言葉が盤面に現れるのがクロスワードの楽しさの一面ですから、まったく同じ言葉がいくつも入ってるのは興ざめ。
しりとりだって、同じ言葉を再び使っちゃいけないんですから、そんなに不自然な決まりとは言えないでしょう。
さて。
日本のクロスワード最初期、大正14年に出版された『クロス・ワードの考え方と作り方』(本山桂川 崇文堂)。何度もネタにしてますが、この書の一節「クロス・ワード考え方の法則」(8ページ)には、以下のように書かれています。
“又特別の場合を除く外同一の言葉を同一の問題の解答に二度又は二度以上用いてはなりません。”
まさに同語禁ルールのことですね。大正時代にすでに明言されているのです。
ただ、この直後にこういう文章が続きます。
“尤も文字は同じでも意味で違えばさしつかへないとすることも出来ます。”
つまりこれ同音異義語は許容してもよいんじゃないかという考え方。「高価」と「校歌」それぞれが盤面に入っていてもOKなスタンスです。
ニコリが制作した世界最大のクロスワード『メガクロス』では、以下のような規準が設けられています。
2-2.同音異義語などについて
・通常のクロスワードでは、同じ綴りの言葉を複数入れることはルール違反と考えられています。しかし、日本語の言葉の数の制約があることと、上記の通り「日本語のショーケース」を意識して作成したことから、この『メガクロス』では、同音でも、意味の明らかに異なるもの(同音異義語)については並立させています。したがいまして、ワクの複数の場所に同じ綴りの言葉が入ることがあります。(ニコリ刊『メガクロス』より)
いろいろな言葉を入れるという趣旨で考えると、つづりのみで言葉を制限するのは、使用単語のバリエーションや多様性をせばめてしまいます。特に、同音異義語が多い日本語ではその傾向は顕著。
だから、言葉の多彩さを追求し、さまざまな言葉を広く集めた問題にしたい場合には、同語禁ルールを制限したほうが、よりよいクロスワードになる場合があるのですね。
同語禁ルールを「同音の同義語禁止」と解釈すると、例えば下図のような問題はありえるでしょうか。
とはいえこれ、解いて楽しむパズルというよりは観賞物だなあ。こっちの方向を追求しても、クロスワードパズルそのものの楽しさへは、たどりつきにくい気もします。
本来この同語禁ルールは、作る側が考慮すべき決まりごとであって、解く上では同語禁なんて気にする必要はありません。解き手に同語禁を利用させるクロスワードの問題、よほどの意図と技量がない限り、おもしろくなる気がしないのです。
いろいろ書きましたが、同語禁ルール、必然性は持っているルールなので、基本的には守るべき決まりごとだと思います。
ではここで今回の問題をどうぞ。ふつうのクロスワードです。同語禁などとしちめんどくさいことは気にせず楽しんでいただければ幸い。
そして最後におわび。
前回のクロスワードのヒントで、「リスペクト」と書くべき部分を間違えて「インスパイア」と書いておりました。おはずかしい。現在は直っております。
ではまた次回。
参考資料
「遠山顕のクロスワードの謎」遠山顕 日本放送出版協会
(次回は2024年12月25日更新予定です)