どうも(ケ)です。まずはクロスワードを一問どうぞ。
小学生にも解けるクロスワードです。

いかがでしたか。
大人には簡単な問題だったと思います。
このクロスワード、小学生が解くことを想定して作り、そして実際に小学2年生に解いてもらいました。その結果と感想を聞いた上で、初期のヒントをさらに修正改善しております。実例1人ではありますが「解ける小学生がいる」ことは確かな問題です。ついでに中学1年生にも解いてもらいました。そちらもちゃんと正解できたそうです。

クロスワードに限らず、パズルは解く人がいなければ意味のないものです。逆の言い方をすれば、パズルは解く相手を想定しなければなりません。
解く人はいろんな人がいます。老若男女、職業や文化、さまざまなバリエーションの人がいます。当然ながら知識の範囲も人それぞれです。
ありとあらゆる層の人が解ける問題というものもありえるでしょうが、どこかでターゲットを絞りこまねばなりません。さきほどの問題は、最初から「小学生を対象にする」と決めて作りました。
実際のお仕事でも「高齢者向け」「熟年男性向け」「若い主婦向け」「中高生向け」などと、年齢性別などを指定された仕事はよくあります。雑誌や会報誌、広告のように、読者層や向けるべき対象がはっきりしている場合が多いですね。

でも、ターゲットがわかっていても、自分とはまったく異なる人を対象としたクロスワードを作るのは、なかなか大変なことです。
クロスワードを解くのに、その解き手のボキャブラリーは大きく関わってきます。解き手のボキャブラリーから大きく逸脱した言葉を使った問題は解きにくいですし、楽しませることも難しくなってきます。
人が持つボキャブラリーの範囲は、年齢・性別・生活環境などさまざまな理由によって変化します。そのボキャブラリーを把握しなければ、クロスワードの盤面や、ヒント中で使う言葉を選別できません。
問題を作りながら、この言葉は解き手に通じる言葉かな、と悩むこと、日常茶飯事なのですよねえ。

ものすごくざっくり言うと、年長者は年少者よりもボキャブラリーが多い傾向があります。
NTTによる、語彙数推定テストというものがあります。
https://www.kecl.ntt.co.jp/icl/lirg/resources/goitokusei/vocabulary_test/php/login.php
約20年前、やはりNTTによる語彙数推定テストがあったのですが(http://www.kecl.ntt.co.jp/icl/lirg/resources/goitokusei/vocabulary_test_heisei/php/goi-test.php)、その令和バージョンです。

このテストで、自分がどのくらいの語彙量でクロスワードの盤面を作っているのか、調べてみたことがあります。
想定としては、特に難しすぎずやさしすぎず、ふつうの新聞や雑誌に載せても通用する難易度の問題で使える単語。結果として、平成版にしろ令和版にしろ、このテストで「高校生程度の語彙」と判定される、数万語くらいのボキャブラリーを使用可能単語にしていることがわかりました。

クロスワードを作るとき、使用できるボキャブラリーが少なすぎると、言葉を組んで盤面を成立させることが難しくなります。また、ヒント文に使えるボキャブラリーも減りますから、解き手に意味が通じるような説明が難しくなります。
かといって、多すぎるボキャブラリーの範囲内の言葉を自由に使うと、なじみのない言葉、意味の通りにくい言葉などが現れてきます。その結果、解くのが難しくなることもあります。

だから、小学生でも解けるクロスワード、実は作るのに手間がかかるのです。盤面に入れる言葉、すなわち「小学生が思いつける言葉」の数が少ないのに加え、「答えを思いつかせるためにヒントで使える言葉」の数も少ないのがその主な理由ですね。
そしてまた「昔なら子どもでも知ってたけど、今の子どもじゃ知らない単語や言い回し」なんてものもあります。そういう言葉を使ったらやはり小学生には解けません。今の小学生のキモチになって作らねばならないのですねえ。大変たいへん。

念のために書いておきますが、いわゆる難問クロスワードすなわち「解くのに手こずることを想定したクロスワード」は、「解きにくいクロスワード」「解けないクロスワード」とはまったく別物です。
解き手に多くの語彙や知識を要求し、また難解な言葉を多用したクロスワードというのはあります。実際の仕事としてその種のクロスワードを作ってもいます。
ただしそういう難解なクロスワードも、しかるべきヒントを頼りにしかるべき言葉から解き明かしていけば、必ず正解にたどり着けるように作られます(私はそれを心がけています)。
「解きにくいクロスワード」「解けないクロスワード」というものは、作り手の技術の至らなさにより、不要かつ不毛な努力を解き手に強いる問題、と私は考えていまして、つまりは「解き手をたのしく悩ませるために必要な技術を、作者が持ち合わせていない」ために「悩ませるばかりで楽しくないクロスワード」が生まれるのです。そういう問題に堕しないように日々自戒しながら問題制作しているつもりですが、ああ書いていても自分を棚に上げてる感がヒシヒシとして、耳が痛かったり胸がドキドキしたり。

パズルで楽しませるには、そのパズルが解けねばなりません。解けないパズルでは、パズルの楽しさは伝えられないのです。

さて今回はもう1問どうぞ。
冒頭で出した問題のヒントを、少し高年齢向けかつウンチク方面にアレンジしたものです。盤面が同じでもターゲットが異なればこうなります、という例ですね。

ではまた次回。