どうも(ケ)です。
前回は、ヒント文中では言いたくないほかのヒントの答えを、それを指し示す別の表記にする、という話でした。
今回もそれと少し似た話です。
ヒントをつけるときに、辞書を引くのはよくやることです。辞書というのは言葉の定義を簡潔にまとめたもので、クロスワードのヒントに通じるところがあります。
例えば「わらびもち」にヒントをつけてみましょう。
わらびもちを広辞苑第7版で引くと、こう書いてありました。
わらびもち【蕨餅】 蕨粉で製した餅。黄粉(きなこ)をつけて食べる。岡太夫。
まったく間違っていません。わらびもちの正しい定義です。
けれど、これをそのまま、「ワラビモチ」のヒントとしてクロスワードに使ったらどうなるでしょう。
1 わらび粉で作ったモチ
あんまりにもそのまんますぎます。なにが答えになるにしろ「ワラビモチ」ではないんじゃないか、「ワラビモチ」だけは違うんじゃないか、という雰囲気もあるヒントです。
前回書きましたが、クロスワードの楽しさのひとつは、ヒントに当てはまる言葉を、自分の記憶や知識の中から思いつくことだと思います。その点から考えると、「ワラビモチ」を思いつかせるためにワラビもモチもあからさまに言ってしまうのは、まったくの逆効果。記憶を探る前に目の前に出されちゃってるんですから。意外性も新鮮味もなにもあったものではありません。よほどの意図がない限りは、解き手を楽しませることなどできないでしょう。
だからクロスワードのヒントを考えるときは、「ワラビ」にも「モチ」にも触れないで、ワラビモチを思いつかせる文章をなんとかひねり出そうと頭を悩ませたりするのです。
この「わらびもち」の例のように、クロスワードのヒントで、答えに含まれるそのものずばりの言葉を使うのを避けることがあります。例えば「ハシリタカトビ」のヒントなら、走るも跳ぶも使わず表現したり。「イトキリバ」のヒントを、糸・切・歯のどの字も使わないで書いてみたり。
走るがダメなら「駆ける」「ダッシュする」、跳ぶがダメなら「ジャンプする」などと言い替えるのは、よく使う手法です。
「金貨」のヒントで「金でできた硬貨」と書くと、「金貨」の金も貨も文中に現れちゃうから、ちょっとひねって「ゴールドのコイン」とするのも、ありがちな解決法。これは果たしてひねってるのか、単にへんてこ英語を使ってるだけじゃないか、とも思うのですが、まあそれはともかく。
前にも書きましたが、答えを直接的に表す言葉は隠しておき、解き手が答えの言葉を発見するよろこびを奪わないようにする配慮が、パズルには必要だと思うのですね。
結婚式のスピーチで「きる」「わかれる」「おわる」などを忌み言葉として避けるみたいな苦労を、クロスワード作家がヒントを考えるときにしているのです。
まあ忌み言葉を避けるのも程度問題。回りくどい、わかりにくい表現をして解き手をいらぬ混乱の中に落とすよりは、少しくらいなら見せちゃうのもアリでしょう。
たとえば「カブトムシ」や「クワガタムシ」のヒント中で、虫(むし)と書きたくない気持ちはよく理解できます。だけど「昆虫」って書くのはいいんじゃないの、くらいに私は考えています。潔癖に「昆虫」も避けて「鞘翅目の生物」とか「節足動物」とか書いて、それで解き手が答えを思いつきやすくなるんなら別ですけど、そんなことないですよねえ。
ヒントは「解き手を楽しませる」という目的を実現するためのもので、作り手の腕前披露や自己満足のためにあるわけではありません。それは常に自戒していないといけないよな、と思うのです。
というところで、今回のクロスワード。
「これを使用しちゃダメ、というシバリを設けてみる」というのがコンセプト。お楽しみいただければ幸いです。
ではまた次回。