一九八二年に『パズル通信ニコリ』七号が出た直後、ある読者から頻繁に電話がかかってくるようになった。その誌面に「クロスワードの数字は、縦に振っていくか横に振っていくか、どちらがいいか迷っている」と書いていたのがきっかけだった。
 電話の主の話の趣旨は、「おたくはクロスワードの番号を、これまでずっと縦に振っている、それがすごくいいんです。一度会ってお話ししたいので、事務所に行きます」というものだった。
(中略)
 小林さん(引用者註:先述の電話の主)は鍜治さんに向かい、「本は横に続いていくから、縦振りだと、延々と長いクロスワードを作ることができる。だからニコリの縦振りが素晴らしいんだ」と力説した。

ニコリ編『すばらしい失敗 「数独の父」鍜治真起の仕事と遊び』

どうも(ケ)です。
ニコリの出版物に載るクロスワードや、ニコリが制作するクロスワードは、番号をタテに振っていくのが基本ルールになっています(例外あり)。
それに対して、番号をヨコに振っていくやり方もあります。世の中のクロスワードは、こっちのやり方のほうが多いです。
番号の「タテ振り」「ヨコ振り」とは具体的にどういうことかというと、盤面の番号1に対して、番号2が来るのは下側か、右側か、という違いだと言い換えられます。

先に言っておくと、このタテ振りとヨコ振り、どちらかが正しくどちらかが間違っている、というものではありません。盤面に振られた番号は、ヒントに対応する言葉をどこに入れるか、という座標の指定に過ぎませんから、どんな振り方だって、解く上では実は大差ないのです(完全にランダムに振られていたら、解くのがずいぶんめんどくさくなりますけど)。
番号の振り方がものすごく独特な盤面を見たことも過去に幾度かあるのですが、それはタテ振り・ヨコ振りみたいな整理されたやり方を知らなかっただけだと思います。どんなヘンテコな番号の振り方でも、その振り方が間違っているわけではないのです(番号と単語とヒントがきちんと対応してさえいれば)。

ただ、ニコリで採用している番号タテ振りに、ある合理性があるのは確かです。
それは「盤面をヨコ方向に拡張しやすい」という点。
タテに振っていくと、タテ列の一番下まで行って、上へ戻ります。ですからタテ列ごとに番号は増えていきます。番号は、ミクロでは上から下へ増えますが、マクロでは左から右へと増えていくわけです。
それに対してヨコ振りは、ヨコ行ごとに番号を振っていくので、ミクロでは左から右へ、マクロでは上から下へと増えていきます。

かつて「パズル通信ニコリ」別冊「クロスビー」では、「一横連(いっちょこれん)クロス」というクロスワードを載せておりました。ユニット化された盤面をヨコ方向へつなげて、盤面サイズをどんどん大きくしていこうという企画。最初に引用したとおり、本は横に続いていくので、盤面を拡張させつづけるならばヨコ方向に伸びるのは自然な流れです。また雑誌に連載される盤面として、そのほうが見やすいですし都合がよい。

同じくニコリの出版物で、最初から大きなクロスワード盤面として作られたのが、2000年に発行された「20世紀クロスワード」。
年表を意識した作りで、経本のような折り本、つなぎ合わせて一枚にした紙を蛇腹状に折りたたんである本です。タテ8マス×ヨコ610マス、全長5m以上にもなる巨大なクロスワードなのでした。とてもヨコに長い盤面なのですが、年代が進むに従い番号が増えていくのが「年表感」を増しています。

そして「出版された世界一大きなクロスワード」、2016年ニコリ発行の「メガクロス」(リンク先では「巻物版も絶賛発売中です」と記載されていますが、2023年2月現在は書籍版のみ発売中です)。これもヨコ長の形式です。タテ129マス×ヨコ1899マス、巻物状の盤面を広げるとタテ約90センチ×ヨコ約13mにもなります。
番号タテ振りというルールの中で作られているのでヨコ長になるのは当然だ、とも言えますが、メガクロスが今の形態のままで番号ヨコ振りだったら、盤面上の一部分を切り出してきたとき、その中に含まれる番号の大小差が、今よりもずっと大きくなるはずです。ヨコ行がとても長くなるので、先述したマクロでの増え方(上から下への増え方)が急激になりますから。解くときには、ヒント本のページを繰りまくらないといけなくなりそう。たいへんです。

さて話はがらりと変わるのですが。
いま、スマホで読むマンガが増えたため、縦スクロールに対応したコマ割りのマンガが増えているのだそうです。たとえば横2ページの見開きって、縦スクロールだとつながらなくなっちゃうんですよね。スマホで縦方向に読み進めやすいマンガの描きかたが必要になるのです。
今後、スマホ上で解かれるクロスワードが増えていくと、もしかしたらタテ長のクロスワード盤面の需要が増加するのかもしれません。

ということで今回は、ヨコ7マス×タテ21マスというタテ長の盤面のクロスワードをお届けします。

こういう盤面だと、番号の振り方はヨコ振りが合理的だとなりますね。実際に、ヒントの番号はヨコ振りで付けてあります。ところが盤面には、番号が振られていないのです。これは意図的です。
基本に立ち返って考えてみると、盤面の番号は、どこにどのヒントが対応するのか、という座標指定でしかありません。ところがデジタルのクロスワードは、番号に頼らずとも、盤面をクリックあるいはタップさえすれば、そこに対応するヒントをすぐに示せるのです。反対に、答えたいヒントを指定して言葉の入力モードへも移れます。盤面の対応するマスへは自動的に文字が入ります。盤面やヒントの中から番号を探し回らなくてもよいのです。e-クロスワードを作る上で、このへんちゃんと考えていたのですよ。すごいでしょ(自画自賛)。

ではまた次回。