文章:(ケ)
前回は、黒マスをナナメにやたらとつなげる話をしましたので、今回は、黒マスをつなげないとどうなるかについて。

黒マスをつなげない配置で典型的なのは、黒マスが桂馬やチェスのナイトの動きのように並んだ「桂馬跳び配置」です。
まんべんなく黒マスが配置されていて、法則性がわかりやすく規則正しいので、見た目が美しくてインパクトのある配置です。古くからよく使われている配置だと思います。

他の単語とからんでいないマスは周辺部分にしかありません。黒マスが並んでいないので、盤面上の障壁となる作用は最小限です。黒マスの長いナナメ連続とは、いろいろ性質を異にしています。

でも実は私、この配置、あまり使っておりません。
いちばん大きな理由が、言葉のからみが緊密で、なおかつ均一であるという、この配置の特徴そのものにあります。
黒マスのナナメ連続がない分、単語は全方位的にしっかりと交差したかたちで盤面ができあがっているのですね。そのため、言葉組みが難航しがちになるのです。
たいていの黒マス配置だと、ここさえ組めればあちらは楽そうだ、というような、言葉組みの簡単なところ難しいところのメリハリがあります。言葉組みのペースにインターバルがあるのですが、桂馬跳び配置だと、息継ぎする暇もなくずーっと走り続けなければならない感じ。たいへんなので敬遠しがちになるのです。

そして桂馬跳び配置には、盤面中の4文字言葉が多くなるという特徴もあります。
実際の例をみてみましょう。下の図は、7×7マスの盤面で、桂馬跳び配置と、総単語数が同じ別の配置、その双方に含まれる単語の長さを比較したもの。
桂馬跳び配置では、全部で24個入る単語のうち、その半分が4文字。
一方で右側の配置では、2文字から5文字まで、ばらけた分布になっています。

これらの特徴があるために、桂馬跳び配置では、ちょっと油断するとカナ4文字の読みの熟語がやたらと入ることになっちゃったりします。和語や外来語を使ったらとたんに組みにくくなる場合もあります。技量が要求される配置なのです。
また、盤面に4文字よりも長い言葉を入れるためには、桂馬跳び配置の黒マスをどこかで取り除かなければなりません。これはまた桂馬跳びの美しさを損ねることにもなって悩ましい。サイズの大きな盤面には長い言葉を入れたくなる性格の私は、そんな点でも桂馬跳び配置とは相性が悪いのですね。

あと、9×9マスでこの桂馬跳び配置をすると、隅の部分に「1文字が交差しない2文字言葉」ができてしまうのですね。この「1文字が交差しない2文字言葉」、つまりは文字の半数がからんでいない言葉ということで、からみで解かせるクロスワードとしてはやはり悩ましい問題。十分に注意しないと、解けなくなる事態も招いてしまいます。

いろいろクセの強い黒マス桂馬跳び配置、うまく使いこなすのは大変ですが、それでも挑戦しがいのある配置であるのは確かです。
ということで、今回の問題は、桂馬跳び配置をアレンジした黒マス配置の問題です。がんばって長い言葉を使ってみました。

ちなみに、クロスワード作家としてベテランの遠藤郁夫さんは、黒マスのナナメ連続がない黒マス配置をしばしば使われています。例えば下図、パズル通信ニコリ179号掲載の盤面。このいっぷう変わった黒マス配置、遠藤郁夫さんの独特な作風にもつながっているのだろうなあ、と個人的に考えております。

ではまた次回。