どうも(ケ)です。今回は予告どおり長音の話です。

先々月から登場している『記者ハンドブック』略称記者ハンは、長音記号の使い方についても基準を設けています。もちろんこの基準は記者ハン基準であって日本語ルールということではありません。記者ハンは、統一感があり同時に読み手に違和感のない表記を目指してるんだと思います。
前回も例に挙げたメイン・メーンみたいに、どっちもありなんじゃないの、というあいまいな長音表記は悩みのたね。よく悩むのがプレイ・プレーとか、ウエイト・ウエートあたり。毎回記者ハンを調べて、プレーだね、ウエートだったか、と確認します。
読む側は長音でも母音でも同じ意味なのであまり困らないとは思いますが、クロスワード的には、長音になるか母音になるかでその言葉にからむ言葉が違うものになってしまうのが大問題というわけです。

実際に使った対策なのですが、「長音になっても母音になっても大丈夫」なように手を打っておいたことがあります。
懸賞問題に使うクロスワードでした。二重ワクを拾ってできる答えを「エープリルフール」と決めて盤面を組み始めたのですが、その問題を載せる媒体での表記が「エイプリルフール」である可能性が残っていたのです。もちろんその媒体で使う表記を問い合わせてはいたのですが、その答えが来るまで待っていたら納品日に間に合わなくなるというスケジュール。お仕事ですので納期を先延ばしにはできません。ビジネスのつらいところです。
そこで私がとった手は、長音母音、どちらに転んでもOKにする、という両面作戦でした。具体的には、盤面はそのままで、ヒントを一部変更するだけで対応可能にするというもの。進行上、問題をまるまる全部差し替えるのは困難でしたが、ヒントの差し替えだけなら納品後でもじゅうぶんに可能だったのです。
というわけで作ったのが下の盤面。

盤面下端、サツカーとゴーに含まれる「ー」が「エープリルフール」の2文字目の「ー」に相当します。ここの二重ワクを「イ」にすることになったら、サツカー(サッカー)・ゴー(GO)をサツエイ(撮影)・ゴイ(語彙)と変更し、ヒント2つだけを修正して対応しようと考えたわけです。答えの盤面はその号には載らないので(懸賞問題ですからね)そちらのデータ納品などの対応は後日でOK、という次第でした。
実際にはこの対策は必要にならずに答えは「エープリルフール」のままだったのですけどね。あまり何度もやりたい手ではありませんが、お仕事でクロスワードを作ってる身としては、このへんの裏技的テクニックはいろいろと心得ているのでした。

ところで。
長音が母音になっても、からむ言葉そのものは変わらない、表記が変わるだけで意味は変わらないのならば問題はないのでしょうか。
さっき例に挙げた、プレーとウエート。この2語が盤面上「ー」で交差していたとしたら。長音記号「ー」が「イ」になっても、PLAYとWEIGHTで、同じ言葉だからヒントも変えなくてすんで問題なくおさまるのではないか、そんな考え方もあると思います。
ただこれ問題としてはいいものの、答えには長音を載せるべきかイを載せるべきか。
もっとはっきりいえば、いわゆる「別解」というものになるのではないか。
そんなまた違う問題が発生するのです。

盤面で、同じ発音の長音を交差させるのは、答えの表記が複数ある盤面になってしまう危険性があるわけです。これを避けるため、意識的に違う発音の長音記号を交差させることもあります。プレーの「ー」に交差させるなら、ハートやスープの「ー」にする、ということです。これはこれで解決策のひとつ。さきほどのエープリルフール盤面でもそうしてます。
ただ、同じ発音になる長音記号どうしが交差するのは、感覚的には納得しやすいんじゃないかとも思います。そういう自己ルールで問題を作っている人がいるのも確かです。それはそれで納得できるのです。異なる発音の長音記号は別物で、それらを交差させちゃいけないと考える人もいますから。そういう意見を実際に聞いたこともあるのです。

つまりは「違和感を与えない」「別解を避ける」という2つの対立軸の間でジレンマになってしまうのです。「別解を避ける」を否定するのはまだまだ過激すぎる感もありますので、前者の「違和感を与えない」を達成する方向へもってくのが現実的な落とし所だよな、と思います。で、その「違和感を与えない」表現の基準のひとつが、記者ハンの基準なんじゃないかしら、と私は考えています。みなさまはいかがお考えになるでしょうか。
この「違和感」というのは、パズルを楽しむことにいろいろな形で関わってくるキーワードじゃないのかな、とも考えているのですが、そのへんはまた別の機会に掘り下げていきましょう。

最後にちょっと余談。
ニコリ編集部の内部ルールでは、クロスワードなどのパズルを解くときや、手書き原稿を作るとき、長音記号はハイフンやマイナスと同じく横棒で書くことになっています。縦棒で書いちゃダメ。
「縦棒で書いた長音記号は、カタカナのノと見間違えやすい」というのがその理由のひとつ。ミラーがミラノに、ゲームがゲノムになっちゃったら困りますもんね。

今回はここでおしまい。それではみなさまよいお年をー。