どうも(ケ)です。
いよいよ11月第3木曜日、例のワインの解禁日が到来です。
この解禁日、三省堂国語辞典第7版では「ボージョレヌーボー」という見出し項目で出ています。「ボジョレ(ー)ヌーボー」という見出し項目もあって、ボージョレヌーボーを見よ、と指示されています。
ちなみに広辞苑の第7版(2018年発行)では「ボジョレー‐ヌーヴォー」という見出し項目になっています。広辞苑は「ヴ」の表記を使うのでなおさらややこしくなります。なお広辞苑の第6版(2008年発行)では「ボージョレー‐ヌーヴォー」。おや10年で表記が変わっていたのですね。
先月も使った『記者ハンドブック』通称・記者ハンの13版(2016年発行)では、「ボージョレ・ヌーボー」。でも12版(2010年発行)以前では「ボジョレ・ヌーボー」となっていて、やはりこのあたりに時代的な変化があったのかなあ、という感じ。
つまりはこの解禁日、前半に「ボジョレ」「ボージョレ」「ボジョレー」「ボージョレー」と4パターンあり、後半も「ヌーボー」「ヌーヴォー」と2パターンあります。「ヌーヴォ」という末尾の長音省略表記もみかけますし、「ヴォージョレーヌーヴォー」というBの音までヴにしちゃった表記もみた覚えがあります。
こうなるとクロスワード盤面に組みこむのはもちろんヒント文章内で使うのもためらうくらいにややこしいのですよこの解禁日。文字数に8文字から11文字まで幅があるなんて困りものこの上ありません。
いまここには「ヴ音をどう表記するか」という問題も関わっていますがそれはさておき。文字表記のブレはクロスワードにとってやっかいな問題なのです。
たとえば「金糸雀と書く鳥」という4文字言葉のヒントがあったとき、書き入れるべき言葉は「カナリア」でしょうか「カナリヤ」でしょうか。
記者ハン表記に従えばあの歌声がきれいな鳥の表記は「カナリア」となります。でももしもヒントが「西条八十が作詞の童謡」となってたら「カナリヤ」と書きこまないといけないことになります(童謡のタイトルは『かなりや』なのです)。ちなみに「西条八十が作詞の童謡の、元になった詩」だと「カナリア」が正しいらしいです(Wikipediaにはそう書いてありました)。ああややこしい。山へ捨てちゃうぞ。
ついでにあげれば、のばす音を「ー」で書くか書かないかも、表記ブレの問題の1つ。
「おもな」を意味するMAIN。これ「メイン・メーン」と表記にブレがあります。メーンのほうがちょっと古めかしい響きがあります。今の記者ハン第13版では「メイン」となっていますが第12版までは「メーン」でした。「メーンエベントという表記はなんだかきもちわるい」としばしば言われたものです。
これがクロスワードでどう問題になってくるかというと。
「メイン」と「ケイキ」をイで交差させている場合、「メーン」と書いちゃうと、そこにからむ計器や景気が、洋菓子のケーキになっちゃうのです。計器とケーキじゃヒントも全然違いますよね。解き手が面食らっちゃって困っちゃうこまっちゃう。
こういうとき、言葉のからみで文字を確定させる、というのがクロスワード的には正しい態度なのかもしれません。さきのカナリア・カナリヤを例に挙げて説明します。
カナリ○の4文字目に、3文字言葉の1文字目が交差しているとして。ヒントが「おでんやラーメンのがある」ならば屋台(ヤタイ)なので「カナリヤ」、「春宵一刻――千金」だったら値(アタイ)で「カナリア」と決められます。
クロスワードは、ヒントだけから答えを導き出す一問一答のクイズではなく、言葉のからみを利用して盤面を埋めていくものなのですから、これがあるべき姿なのかもしれません。
でもこれも、作者の不備不用意を解き手に尻ぬぐいさせるような歯がゆさを覚えてしまってなんだか落ち着かないのです。
盤面に入るのがカナリア・アタイだったとして、先にカナリヤと入れたら、ア○○ではなくヤ○○という言葉を入れるのかと解き手は思いますよね。でもヒントはアタイを指し示すヒント。解き手は困ってしまいます。
こういうときは、アタイが先に決まるように(カナリアはヒントからではすぐに決められないように)ヒントの難易度を調整するという解決法もあります。ありますが常にうまくいくわけじゃありません。解き手が言葉を決める順番を思い通りに誘導するのは難しい。困ったものです。
表記の揺れは、どこかに完璧な正解があるわけではないのにくわえ、解く人がどう覚えているか、どの書き方を自然に使うのかに大きく依存することが悩ましさの原因です。
誰だって自分になじみのある表記を正解と思いますから、そこで違う表記を強いるのは違和感を覚えさせ楽しさを減らしちゃうかもしれません。
それでもどれか1つの表記を選ばないとなりません。無難な選択肢の1つとしては「もっともメジャーな表記を採用する」のですがさてそのメジャーとはどれなんだ、と悩みは広がるばかりです。
こんな具合に悩みながら、日々クロスワードを作っているのでした。
来月は、さきほどもちらっと触れた、長音「ー」にまつわる諸問題についてお話ししようかなと思います。