こんにちは(ケ)です。
10月も残すところあと10日強。アレがもうすぐやってきます。
10月31日のアレですよアレ。カボチャでランタン作ったり「トリック・オア・トリート」って言ってお菓子をねだったりコスプレして町中を闊歩したりするあのイベントですよ。
さてそのイベントですが、文字で書くとき、その表記には揺れがあります。
新聞や雑誌だと「ハロウィーン」という表記が多いかと思います。一方で、商品や広告などでよく見るのは「ハロウィン」という表記。長音が入るか否かの違いですね。
「ハロウィーン」と「ハロウィン」どちらを使えばよいのか、これはスパッと答えるにはなかなか難しい問題。どちらかが正しくどちらかが間違っているわけではないですし。辞書の見出し項目では「ハロウィン」が多いようですが、三省堂国語辞典を調べたら別表記としてハロウィーンやハーロウィンも載っていました。困ったことです。
まあ困ってばかりもいられないので実際問題として考えると、頼りにできる基準があることはあります。
さきに「新聞や雑誌」「商品や広告」と分けて書いたのには少し理由がありまして。メディアには多くの場合、用字用語の表記ルールがあるのですよ。
その1つが、共同通信社が出している『記者ハンドブック』略称「記者ハン」。例えば「大型・大形」「聞く・利く・効く」といった言葉の使い分け方、あるいは外国語地名や人名などの表記について、標準ルールをまとめたガイドブックです。私も仕事で日々使っていますが、いろいろな新聞や雑誌が文章を書く上でこの記者ハンのきまりに沿っています。このほか大手メディアでは独自の用字用語集を持っているところもあり、ニコリでも朝日新聞や読売新聞、NHKなどの用字用語集はそろえています。お仕事でそれらを調べることも多いのです。
記者ハンの「外来語用例集」を見てみると、あのイベントは「ハロウィーン」と記されています。これに従ってあの10月31日のイベントを「ハロウィーン」と表記する新聞や雑誌が多いのでしょうね。
ただしこれは「表記は記者ハンドブックに従います」という規則があるメディアではそれに従って「ハロウィーン」と表記している、というだけのことです。言葉として記者ハンの表記が正しい、という意味ではありませんのでそこはお間違えなきよう。ジョン・カーペンターの映画とか、昔出ていたホラーマンガ雑誌とか、それらは「ハロウィン」が正しくて「ハロウィーン」と書いたら間違い。
まあこういう具合に、外国語を日本語に直すときに表記の揺れが起こるのはよくある話です。よくある話ですが、クロスワードにとっては大問題。
クロスワード盤面に入れるときに、6文字なのか5文字なのかは大違いですよね。5文字のマスの部分に6文字言葉は入れられない。6文字の部分に5文字で入れたら字の入らないマスができちゃう。たいへんに困った事態が起こります。
このあたりがケンノンなので、個人的には、あのイベントの名前そのものを盤面に組みこむのは必要がない限り避けています。もしも、あのイベントの名前を使ったクロスワードの依頼が来たら、制作の前に、どっちの表記を使うのかをまず確認しておいてもらいます。作り終わってから「その表記じゃないです」とチャブ台返しをされたらたまったものではありません。
クロスワードを解く側だって、5文字の言葉を入れるべきマス数が6個だったなら、何か間違えたかと思っちゃいますよね。かくのごとく、表記の揺れはさまざまな困った事態を生み出します。
似たような表記の揺れはいろいろあります。例えば「マネジャー・マネージャー」「イヤホン・イヤフォン」「レフェリー・レフリー」「エンターテイナー・エンターテナー」などなど。ちなみに記者ハン基準だとどれも前者の表記。
例のあのイベントにかぼちゃ大王がやってくると信じるライナスが登場するマンガは『ピーナッツ』ですが、落花生のことは「ピーナツ」と書くのが記者ハン。ミスターとかクリスピークリームとかがある穴があいたあのお菓子はドーナッツでなく「ドーナツ」。ナポリタンとかミートソースとかがおいしい細長いパスタもスパゲティー・スパゲッティ・スパゲッティーなどいろいろ表記揺れがありますが記者ハンでは「スパゲティ」となります。
ねんのために繰り返し書いておきますが、これらは記者ハンの表記が言葉として正しいという意味ではありませんのでお間違えなきよう。あくまで表記の統一基準ということです。ちなみに「きじゅん」を規準ではなく基準と書くのも記者ハン基準です。
固有名詞ならば大丈夫かと思いきやそこにも困った事態は出現します。
たとえば地名もいろいろ大変。記者ハン基準だと、インドの東隣の国はバングラディシュでもバングラディッシュでもなくバングラデシュ。チリの首都はサンチアゴではなくサンティアゴ。嘆きの壁があるのはイェルサレムではなくエルサレム。国名や都市名は、記者ハンだけでなく外務省の表記を頼ることも多いですね。
人名だって大変です。記者ハンによれば、喜劇王はチャップリンではなくチャプリン。『ターミネーター』の俳優はシュワルツネッガーでもシュワルツェネガーでもなくシュワルツェネッガー。『サイコ』『鳥』で有名な映画監督はアルフレド・ヒチコックになるのですが名番組『ヒッチコック劇場』は熊倉一雄の吹き替えで「アルフレッド・ヒッチコックです」と言ってくれなきゃいやだいいやだい。
表記の問題は、文字数だけでなくほかにもいろいろ悩ましいのですが、それについてはまた来月にでも。ああそういえば来月11月には、今年のワインの出来を品評するあの解禁日がありますけどアレの表記がまたいろいろあってめんどうくさいことこの上ないのですよねえ。