どうもこんにちは(ケ)です。
前回は、日本の名詞しばりクロスワードはなぜ生まれたか、という疑問で終わりました。
この名詞しばりクロスワードを考える上で、ひとつの遊びが大きく関わってきます。
それは「なぞなぞ」です。
いま「前回のヒキでオメーしりとりとか言ってたじゃねーか」というツッコミが聞こえた気がしますが忘れてませんのでご安心ください。


なぞなぞは、問いに対して答えを返す遊びです。
クロスワードは、ヒントに対応する言葉を考えるパズルです。
どちらもおなじ構造です。クロスワードはなぞなぞが発展した遊びともいえます。
そして、なぞなぞの答え、名詞の場合が多いのです。
「上は大水、下は大火事なーんだ」「パンはパンでも食べられないパンはなーんだ」などの古典的なぞなぞを思い返してみると、おおかたは名詞を答えにする問いです。「なぜでしょう」と理由を問うなぞなぞもありますが多数派ではありません。

なぞなぞの答えに名詞が多いことは、名詞しばりクロスワードとなにか関係しているのでしょうか。
でも、なぞなぞって、日本のみならず英語圏そして他の言語圏でも古くからよく知られている遊び。そして日本語以外のなぞなぞも、ものの本を調べてみると、答えは名詞の場合が多数派。
ということは、英語クロスワードが名詞しばりではなく、日本語クロスワードに名詞しばりが多いのには、またなにか別の理由がありそう。

ちょっと視点を変えてみます。
そもそも英語クロスワードでは、なぜ名詞しばりではないのでしょう。
これは「英語の名詞は、動詞や形容詞も同じ語であることが多い」という英語の事情が背景にあるのではないか、と私(ケ)は考えています。
例えば「CROSS」という英単語は、「十字」という意味の名詞であり、「交わる」という動詞であり、「交差した」という形容詞でもあります。同じつづりの単語が名詞や動詞など複数の品詞にわたるパターン、英語にはたくさんあります。
このように、名詞とそのほかの品詞に大差がない言語だったら、ある名詞を名詞以外の品詞として扱うのにも抵抗はないでしょう。その結果、名詞以外の品詞が盤面に入っていても受け入れやすかったのではないでしょうか。
英語クロスワードで品詞が多様であるのは、この辺の事情が理由のひとつではないかと私は推測しています。

クロスワードをなぞなぞの発展系ととらえるならば。
クロスワードを解く人は、なぞなぞ同様に、答えになる言葉は名詞だ、名詞を盤面に入れるんだ、ということを受け入れやすい。これは確かだと考えられます。この点に関しては、英語も日本語も条件は同じ。
となると、日本語クロスワードの名詞しばりが生まれたのは、解く側ではなく、クロスワードを作る側になにか理由があったのではないでしょうか。
ここに日本の言葉遊びのひとつ「しりとり」が関係しているのかも、というのが、私の考える仮説なのです。どうもお待たせしました。

ご存じのとおり、しりとりも、名詞だけを使う遊びです。
しりとりの名詞限定ルール、考えてみれば当然のルールです。
もしも動詞や形容詞などの語尾が変化する用言を使用すると、語尾がとても肝心になるしりとりの構造そのものが揺らぎます。しかも動詞を使うと、しりとりの強力テクニック「ルで終わる言葉」を簡単に返せちゃうのです。
それでは遊びとして破綻してしまいます。ゆえに、しりとりは名詞限定なのでしょうね。
ちなみに英語圏でも、しりとりに似たワードチェインという遊びがあるらしいのですが、日本のしりとりほどメジャーではないようです。


さて。
クロスワードの問題を作るには、まず答えの盤面、すなわちすべてのマスが字で埋められた状態のものを作りあげることが必要です。それを作ってからそれぞれの言葉にヒントを付けていく、という工程がよくあるやり方です。
実際に答え盤面を作るときには、例えば「アではじまる言葉、なにがあるかな」「タ○○○といえばなんだろう」などと考えることの積み重ね。
この思考、しりとりと似ていませんか。
脳の中の、しりとりを担当する部分を使ったら、思いつく言葉は名詞になりやすいのではないでしょうか。私たちの頭の中には「しりとり脳」とでも呼ぶべき言葉選び機能があって、それは名詞を優先的に連想する仕様になってるんじゃないでしょうか。

この仮定を前提にして考えると。
日本語を使う人(しりとり脳を持ってる人)がクロスワードの答え盤面を作る場合、盤面に入れる言葉としてはまず名詞を連想しやすくなります。自然に盤面は名詞中心に作られていきます。
しかも解く側にとっては、クロスワードは変形版なぞなぞというべき遊び。名詞ばかりでできた盤面は、答えとして名詞を考える「なぞなぞ脳」にとっても自然になじめるものでしょう。
つまり日本では、作る側にとっても解く側にとっても、名詞しばりクロスワードは自然なもので、その結果そういった作りのクロスワードが生まれやすくなったのではないでしょうか。そしてまた、名詞を中心に使うクロスワードが多く出回るにつれ、クロスワードとはそういうものだ、という認識も固まっていったのではないでしょうか。

とまあまことしやかに仮説を広げてみましたが、これは私が考えてるだけで真偽は定かではありません。検証しようにもなにをどう調べればよいやら見当がつきません。
それに実は、クロスワードに入れる言葉、必ずしも名詞しか許されないわけでもないのです。ここは人により意見が分かれそうなのですが、私は「名詞以外を入れるのもあり派」なのですよ。

クロスワードの品詞についての話、まだまだいろいろ広がるのですがそれはまた別の機会に。とりあえず今回はここまで。
次回はぜんぜん違う話をします。でもキーワードはやっぱり「しりとり」になる予定。おたのしみに。