こんにちは。
新連載です。クロスワードパズルについてのいろいろあれこれを、雑多に書きつづっていこうかと思います。
などと書いているこのひとはニコリ編集部員の(ケ)です。ニコリが出しているクロスワードの本ではKGECという筆名で載っています。でもここ2年ほどは依頼がなかったので名前が出てないです。おはずかしい。
日々の仕事では、主に新聞や雑誌に載るパズルを編集したり作ったりしています。クロスワードもたくさん作ってますよ。てなわけでよろしくです。
さて。世の中にあまたあふれるクロスワード、もうすでにすっかりおなじみのパズルであると思います。
そんなクロスワードにだって、もちろん始まりがあります。
クロスワードが生まれたのは、1913年のニューヨークだと言われています。それが日本へ渡ってきたのはその12年後の1925年、すなわち大正14年のこと。日本に入ってきてからでもすでに百年近い歴史があるのです。
ちなみに大正14年は、NHKのラジオ放送が始まったり、ツタンカーメンの墓が見つかったり、山手線が丸くつながったりした年だとか。
日本最初のクロスワードが載ったのは、週刊誌「サンデー毎日」。図1(左から、大正14年3月1日号、同年3月8日号)はネットの古書店で入手したバックナンバーの写真です。比較のために、今のサンデー毎日も下に並べています。ちなみにサンデー毎日では、今現在もニコリのパズルが連載されていますよ。
3月1日号では、新知識遊戯『嵌め字』としてクロスワードの遊び方を紹介しており、翌週の3月8日号では実際に問題を載せて連載開始。3月8日号に掲載されたパズル盤面が図2です。連載第5回の4月5日号からは懸賞も始めたそうです。
このクロスワードパズルを作ったのは、サンデー毎日の記者たち。新人の阪本勝(のちに兵庫県知事にもなった人物です)にくわえ、米国留学の経験があった石川欣一、山田耕筰門下の前田三男などの編集部員によるものだとか。盤面を見てわかるように黒マスが点対称配置の、今とまったく変わらない姿。このころの米国では、クロスワードの黒マス配置は点対称がすでに主流となっていたため(これは現在まで引き継がれています)それを参考にして作ったのでしょうね。
ところで、3月1日号の「クロスワード・パヅルの説明」という文中には、「單語は主として名詞ですが(普通、固有とも)中には簡単な動詞や形容詞もあります」、3月8日号にある解き方の説明文には「このやうにして鍵に示してある單語(主として名詞又は形容詞)この問題ではすべて名詞を作り上げ、白い四角をすっかり假名で埋めればいゝのです」という一節があります。
3月8日号の問題は、答え盤面(図3)を見ればわかるように、盤面に入る言葉はすべて名詞でした。
いま私たちがよく目にするクロスワードは、多くの場合「盤面に入れる言葉は名詞」というきまりで解いていきます。日本のクロスワード、そのはじまりのとき、もうすでに名詞しばりが提唱されていたのですね。そしてこの名詞しばりという習慣は、日本語クロスワードの特徴のひとつであるとも言えるでしょう。
でも、そもそもなぜ名詞しばりにしたんでしょうか。
英語クロスワードでは、入る言葉の品詞は名詞に限りません。形容詞や動詞、副詞など名詞以外の品詞も使われるのが一般的です。
先ほども書いたとおり、この日本語クロスワードに関わったサンデー毎日編集部員には米国留学経験者もいましたし、米国の英語クロスワードの詳細についても重々承知していたはずです。3月1日号に載っている例題では、1つだけ入っている動詞のヒントには(動詞)と注が入っています。3月8日号では、名詞または形容詞と前置いた上で、名詞のみのクロスワードを作っています。
なにかの意図があるような気もしませんか。
「名詞しばりの日本語クロスワード」が生まれた背景については、なにぶん古い話なので確かなことはわからないのですが、私(ケ)にはひとつの仮説があるのです。
その仮説のキーワードのひとつは「しりとり」なのですけれど、その詳細については、また次回。
参考資料
「サンデー毎日」1925年3月1日号、1925年3月8日号 大阪毎日新聞社
「週刊誌五十年 サンデー毎日の歩み」野村尚吾 毎日新聞社
「遠山顕のクロスワードの謎」遠山顕 日本放送出版協会